Trypanosoma bruceiにおいてGPIアンカーの3番目のマンノース転移に関与する遺伝子TbGPI10及びGPIアンカーをタンパク質に結合させる酵素であるGPIトランスアミダーゼのサブユニットの1つTbGPI8を、媒介昆虫であるツェツェバエの中腸内でのステージであるプロサイクリック型においてノックアウトし、ツェツェバエ中腸内での増殖能を検討した。TbGPI10ノックアウト変異株(10KO)は野生株の約半分の感染性を保持していたのに対し、TbGPI8ノックアウト変異株(8KO)はツェツェバエ内での増殖能がほとんど失われていた。この現象を理解するため、GPIアンカー型タンパク質の一つであるトランスシアリダーゼに着目しその挙動を解析したところ8KOでトランスシアリダーゼ活性はほとんど消失してしまっていたのに対し、10KOでは培地中に分泌される形で検出された。更にこれらのトリパノソーマの表面に存在するシアル酸を定量した結果、10KOは野生株の約半分、8KOでは検出限界以下と、細胞表面のシアル酸量はトランスシアリダーゼ活性と、またツェツェバエへの感染能とよく相関する結果が得られた。また最近トリパノソーマ表面にはGPIアンカー型タンパク質以外にタンパク質"フリー"のGPIが存在することが明かとなったので、各変異株よりそれらを精製し構造を解析したところ、やはり8KO表面のGPIにはシアル酸が付加されていないことがわかった。そこで8KOにGPIシグナルペプチドを持たない分泌型変異トランスシアリダーゼを導入したところ、細胞表面のシアル酸及びツェツェバエへの感染性の両方が回復した。以上の結果よりトリパノソーマのツェツェバエへの感染には表面をコートしているタンパク質であるプロサイクリンによるコートよりむしろ、glycocalyx部分とそのシアル酸による修飾の方が重要であると考えられた。
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