マラリアワクチン開発が困難である理由の一つに感染時に宿主免疫が抑制されることで終生免疫が得られにくいことが挙げられる。マラリア原虫感染時の免疫抑制の機序を明らかにすることでワクチン開発に重要な知見をもたらせると思われる。本研究では、マウスマラリアモデルにおける免疫抑制に抑制性T細胞が関与している可能性を検討した。マウスマラリア原虫Plasmodium yoelii強毒株をマウスに感染させると高度の虫血症を呈し感染後12日までに全例死に至る。弱毒株を感染させると一過性の虫血症を経過した後25日目には原虫は排除される。弱毒株感染マウスでは原虫抗原特異的な抗体価の上昇、Tリンパ球の増殖反応が見られたが、強毒株感染マウスではそれらは著しく抑制されていた。さらにこのマウスにおいては脾臓中のCD4陽性CD25陽性抑制性T細胞が増加していた。強毒株を感染させる前に抑制性T細胞を除去すると、原虫に対する抗体反応、T細胞の増殖能の増強に伴い感染抵抗性をもたらすことができたが、弱毒株感染前の抑制性T細胞の除去は感染経過に影響を及ぼさなかった。また、抑制性T細胞の除去によって増強された感染抵抗性にはCD4T細胞、CD8T細胞のいずれもが必要であった。以上の結果から、致死性感染を起こす強毒株はCD4陽性CD25陽性抑制性T細胞を選択的に活性化することによって感染抵抗性にはたらくT細胞の機能を抑制し、宿主免疫からエスケープしていることが明らかとなった。
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