研究概要 |
近年,粘膜ワクチンが従来の注射接種型ワクチンと比べ,粘膜侵入型病原体に対する感染防御ワクチンとして有効であることが示されている.したがって,幾つかの注射型ワクチンを粘膜投与型に改変しようという試みがあり,インフルエンザワクチンがその一例である.また,我々もブタ回虫に対する粘膜投与型感染防御ワクチンの有用性を示した.しかし,本研究では,粘膜ワクチンの更なる汎用性を追及することを目的とし,粘膜侵入型でない病原体に対する粘膜ワクチンの有用性を検討した.具体的には,熱帯・亜熱帯地域で公衆衛生上極めて重要な節足動物媒介性の感染症であるマラリアに対する新しいワクチン開発を視野に入れ,原虫のヒトから蚊への媒介を阻止する伝搬阻止ワクチンの粘膜ワクチンとしての有効性を検討した.これら一連の研究から粘膜面を進入門戸としない節足動物媒介性病原体に対しても粘膜免疫法が極めて有効であることを示した.即ち,マラリア伝搬阻止ワクチン抗原をマウスへ経鼻免疫することにより,ネズミマラリア,ヒトマラリア(三日熱,熱帯熱)のいずれでも完全な感染防御抗体の誘導が可能であることを示した.これらの経鼻免疫により誘導可能な免疫とその感染防御効果には幾つかの特色があることも分かった.まず,1)組換えタンパクの直接の経口投与では免疫応答の誘導が極めて難しいこと,2)注射接種より大量な投与量を必要とすること,3)アジュバントとの併用が不可欠であること,4)CTBなどの粘膜組織運搬体との融合化により効率よく免疫が可能であること,5)また,CTBとの融合により,高度精製の必要性が必ずしもないこと(ワクチン抗原選択的免疫の可能性),などである.以上の結果に基づき,粘膜投与型のアジュバント及びワクチン抗原の高効率発現が,経鼻免疫及び最終的には経口免疫法による感染防御ワクチン開発に重要な鍵を握ることが示唆された.そして,CTB融合型ワクチン及びアジュバント分子作成を効率化できるヘテロ型CTB融合遺伝子の構築に成功した(特願2003-279156).現在,このシステムを利用して,粘膜投与型アジュバント及びワクチンの産生効率及び感染防御能の検討を行っている.また,CTB以外の分子を利用して,抗原提示細胞を標的とするアジュバント及びワクチン運搬分子の構築に関する実験を行っている。
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