ウエストナイルウイルスが日本に侵入した場合を想定し、重要と思われるアカイエカ種群蚊とヒトスジシマカについて、殺虫剤感受性レベルを調査した。また、抵抗性機構の推定をおこない、殺虫剤抵抗性に関連づけられる作用点遺伝子の構造変化を解析した。 2003年は主に首都圏の市街地から採取したアカイエカ群19コロニーとヒトスジシマカ10コロニーについて、有機リン剤のフェニトロチオンとテメホス、ピレスロイド系のエトフェンプロックス、昆虫成長制御剤のピリプロキシフェン、ディミリンを使い、幼虫の殺虫剤感受性試験を行った。エトフェンプロックスを除いた各殺虫剤では、アカイエカ群、ヒトスジシマカのいずれも製剤の用法・用量に定められている有効成分の濃度以下で有効性を示し、試験を行った範囲に於いてはこれらの殺虫剤に高い防除効果が期待できるという結果であった。しかしながら、エトフェンプロックスを用いた試験では、アカイエカ群中の8コロニーについて、感受性系統のLC99×100の濃度をもってしても10%以上の生存が確認された。中でも渋谷で採集されたチカイエカに於いては著しい感受性の低下が認められ、20%を下回る死亡率であった。 アカイエカ群におけるエトフェンプロックス抵抗性の原因を探るため、共力剤を用いた殺虫試験を行った結果、抵抗性の要因としてチトクロムP450酸化酵素系による解毒活性の増大が関与していることが明らかとなった。さらにピレスロイド剤の作用点であるナトリウムチャネルの構造解析を行ったところ、渋谷、市川で採集された抵抗性チカイエカでLeu999がPheに置換していることが、また公園等で採取された抵抗性アカイエカからは、同位置がSerに置換していることが明らかになった。これらのアミノ酸置換はすでに多くの殺虫剤抵抗性昆虫種からほぼ普遍的に見つかっていることから、これらがエトフェンプロックス抵抗性の要因となっていることが示された。
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