私どもはStaphylococcus lugdnensis、Staphylococcus warneri菌株培養上清から、黄色ブドウ球菌の溶菌を指標として、黄色ブドウ球菌特異的溶菌酵素の精製を試みた。それぞれの菌体のLiCl抽出画分に既知の溶菌酵素に対する抗体と交差反応するタンパク質が認められた。そこで、それぞれの菌株からジェノミックDNAを調整し、適当な制限酵素で消化後、既知の溶菌酵素をコードしたDNA断片をプローブに用いて、サザンハイブリダイゼーションを行った。しかしながら、ハイブリダイズするバンドは得られず、既知の溶菌酵素と類似した酵素遺伝子を持っていないことが示唆された。また、MRSA、MSSAそれぞれ10株に対してS.lugdnensis、S.warneri菌株培養上清画分の溶菌活性を検討したこところ、MRSAに対しては溶菌活性を示さず、MSSA10株中、3株に対して溶菌活性を示した。溶菌活性をもつ株の培養上清画分について、熱処理を行っても、その溶菌活性は失われず、これらの株が産生するのは溶菌活性を持ったタンパク質ではなく、抗菌ペプチドの可能性が示唆された。そこで、それぞれの株の培養上清画分を様々なカラムクロマトグラフィーを用い、抗菌ペプチドの精製を試みたが、活性が非常に弱く、精製は困難であった。S.warneri株のジェノミックDNAを鋳型に、既知の抗菌ペプチドNukacin遺伝子を増幅するプライマーを用いてPCRを行ったところ、予想される位置に増幅されたDNA断片が認められたので、少なくともS.warneriの抗黄色ブドウ球菌活性は既知の抗菌ペプチドであることが示唆された。
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