研究概要 |
昨年度の研究により、S.lugdnensisおよびS.warneriの産生する抗菌物質は溶菌酵素ではなく抗菌ペプチドであることが判明したため、本年度はその他のコアグラーゼ陰性黄色ブドウ球菌の産生する溶菌酵素について検討を行った。S.epidermidisおよびS.haemolyticusについて黄色ブドウ球菌を封入したポリアクリルアミドゲルを用いたZymographyの結果、黄色ブドウ球菌に対する溶菌酵素活性をもつタンパクバンドは認められたが、黄色ブドウ球菌に対して強い溶菌活性を示すS.capitisEPK1の産生する溶菌酵素ALE-1ほどの活性を持つバンドは検出できなかった。そこで、ALE-1の黄色ブドウ球菌に対する溶菌機序をさらに検討するため、ALE-1およびALE-1の細胞壁targeting domainの大量精製および結晶構造解析を試みた。His-tag融合のリコンビナントタンパクを大腸菌の系で発現させ、ニッケルレジンにより精製を行いクマシーブルー染色で単一のバンドを得た。また収量も大腸菌1リットルの培養液からそれぞれ約15mgの精製標品を得ることができた。ALE-1のC末端領域に存在する細胞壁targeting domainである92アミノ酸の結晶構造解析の結果、Src-homology 3(SH3) subdomainと似ていることが明らかになった。また、この92アミノ酸およびALE-1の細胞壁への結合能を種々の細菌に対して検討した結果、これらのタンパクはB.subtilis, M.luteus, S.mutansなどにはほとんど結合せず、S.aureusに特異的に結合すること、また、S.auruesの細胞壁ペプチドグリカンの5つのアミノ酸から成る架橋構造がその結合に重要であることを明らかにした。また、ALE-1はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対して感受性菌と同様の強い溶菌酵素活性を示した。
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