我が国で最も多い食中毒原因菌の一つとして腸炎ビブリオが上げられ、また、近年アジアを中心に特定の血清型を持つ腸炎ビブリオ(O3:K6)が流行し世界各地に伝播し問題となっている。腸炎ビブリオ感染症の主要な病原因子の一つとして耐熱性溶血毒(TDH)が考えられており、その作用は、下痢原性と共に、心臓毒性を持つと言われている。腸炎ビブリオ感染症患者で、心電図上QTc延長、ST-Tの変化が認められる事が報告されており、心、血管系に影響を与えることが推測されているが、詳しい心臓毒性の機序は不明である。 そこで、本研究ではRat大動脈を用いて、TDHが血管の収縮、弛緩反応に与える影響について解析を行った。TDHをRat大動脈に添加すると大動脈の収縮を認め、Km=8.6μg/mlであった。この収縮は、細胞外のCa2+をFreeにしたとき阻害された。またprotein kinase C (PKC)の阻害剤であるcalphostin C(1μM)の添加によっても一部阻害された。よってTDHは、細胞外Ca2+、PKC依存性に血管平滑筋を収縮させることが考えられ、この反応が腸炎ビブリオ感染症の病態に関与している可能性が示唆された。
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