ウエルシュ菌type BとDの分泌するイプシロン毒素は、家畜の腸性毒素血症(致死率100%)の原因毒素であり、ボツリヌス毒素、破傷風菌の神経毒素に次ぐ強い致死活性(マウス致死量1ng)と神経毒性を有している。本菌による感染症は、家畜に多発し畜産業界で問題となっている。本研究では、^<35>S標識したイプシロン毒素と抗イプシロン毒素抗体を用いて静脈内投与したイプシロン毒素の生体内における分布を詳しく検討した。まず、イプシロン毒素のアミノ末端にProtein kinase A認識配列を導入した変異毒素を構築し、[γ-^<35>S]ATPとProtein kinase Aを用いて^<35>S標識イプシロン毒素を作成しwhole body autoradiographyを行った。その結果、前駆体毒素及び活性化型毒素は、ともに同様の分布を示した。両毒素は、腎臓に最も集積し、ついで脳-脊髄、脾臓、睾丸、嗅神経、眼球にも集積が見られた。その中でも特に、臭神経には高密度に集積していた。また、腎臓内における^<35>S標識イプシロン毒素の分布は、髄質と皮質の二層の分布が観察された。続いて、最も毒素の集積が強かった腎臓において、抗イプシロン毒素抗体を使った免疫染色によりイプシロン毒素の組織内分布の検討を行った。その結果、イプシロン毒素は、集合管及び糸球体等の血管系に高密度に分布していた。また、遠位尿細管、近位尿細管にも分布が見られた。近位尿細管では管空側に、遠位尿細管及び集合管では基底膜側にシグナルが観察された。さらに、イプシロン毒素の腎毒性を病理学的解析により検討した。その結果、糸球体、集合管、遠位尿細管に軽微な傷害が見られたが、個体死につながる重大なものではなかった。最後に、イプシロン毒素が腎臓へ集積する意義を検討するため、両腎臓摘出マウスを作成し、イプシロン毒素に対する感受性を検討した。その結果、腎臓摘出マウスのイプシロン毒素への感受性は、腎臓を摘出していないマウスより増強していた。以上のことより、腎臓は、イプシロン毒素を特異的に吸着することにより個体死を防ぐ働きをしていると考えられる。
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