研究概要 |
ウエルシュ菌のε毒素は、超微量(3x10^<-11>M以下)でマウスを死に至らしめる。一方で、Madin-Darby canine kidney(MDCK)細胞に対して細胞毒性を示し、その細胞膜にイオン透過性の細孔であるSDS耐性の7量体を形成する。 マウスに静脈内投与したε毒素が腎臓と脳・中枢神経系に局在することや感受性細胞が限定されることから、特異的なレセプターの存在が示唆された。また、ε毒素は、主にraftと呼ばれるスフィンゴ脂質とコレステロールに富む非イオン性界面活性剤不溶性膜領域(detergent-resistant membranes,DRMs)に結合し、DRMで7量体を形成することを明らかにした。さらに、DRM構成脂質の変化がMDCK細胞に対する細胞毒性に及ぼす影響を調べた。細胞膜中のコレステロールやスフィンゴミエリンを減少させた結果、毒素感受性が低下した。ε毒素の毒性発現には、DRMのintegrityが重要であると考えられた。一方、スフィンゴ糖脂質の減少は、感受性をむしろ亢進させた。反対に、細胞に外部からガングリオシドG_<M1>を取り込ませた場合、ε毒素の細胞毒性が顕著に低下した。ε毒素はガングリオシドG_<M1>に結合しなかったことより、レセプターに影響を与えていると考えられた。スフィンゴ糖脂質のどの部分が影響を与えているのか調べるために、スルファチド、アシアロG_<M1>、ガラクトシルセラミド、N-アセチルノイラミン酸、N-アセチルノイラミニルラクトース存在下で感受性を調べた結果、スルファチド存在下でわずかに感受性が低下した。一方、細胞をシアリダーゼ処理した場合、感受性が亢進した。これらのことから、DRM表面における陰性電荷の存在の変化が、ε毒素感受性を変化させていると考えられた。DRMに局在する特異的なレセプターを介して標的細胞に結合し、DRMのmembrane potentialにより超微量でも効率よく7量体を形成し、細胞膜に挿入することにより細孔をあけ、細胞死を引き起こしていると推察された。
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