研究概要 |
これまでに、D型レトロウイルス(M-PMV)、エボラウイルスのGagあるいはマトリクス蛋白質に存在するPPxY配列がウイルス出芽に必須なエレメント(Lドメイン)であり、Nedd4あるいはNedd4様ユビキチンリガーゼ(BUL1)が宿主因子としてこの配列を認識し、出芽を制御することを明らかにしてきた。一方でHIVの出芽にはPPxYではなくPTAP配列がLドメインとして機能していることが報告されており、Tsg101が宿主因子として相互作用することも明らかにされ、Vps経路(ユビキチン化蛋白質の細胞内輸送系の一つ)が出芽に関わっていることが示唆されている。ウイルス種によって、LドメインモチーフとしてPPxYをもつもの、PT(S)APをもつもの、その双方をもつものがある。M-PMVのGagには、以前にLドメインとして同定したPPxY以外にPSAP配列も存在する。そこで、この配列が機能しているかどうかとM-PMV出芽にVps経路が関与するかどうかを明らかにすることにより、ウイルス出芽の普遍性について言及することを目的として研究を行った。PSAP配列を欠失したM-PMVの感染性クローン(ΔPSAP)を作製し、ウイルス出芽への影響を解析すると共に、Vps経路に関わるTsg101、Vps4のドミナントネガティブ変異体の発現やsiRNAによるTsg101の発現阻害がM-PMV出芽に及ぼす効果について解析したところ、ΔPSAPは野生型と同様に子孫ウイルスを産生した。また、Tsg101の発現を抑制すると出芽が著しく阻害され、Vps4A,4BのATPase活性欠失変異体の過剰発現も出芽を阻害した。したがって、M-PMVの出芽にはPSAP配列は必須ではないことがわかった。しかしながら、Tsg101及びVps経路はこのウイルスの出芽にも関わっていることが明らかになり、Lドメインとして何れのモチーフをもつウイルスも出芽過程でVps経路が関わっていることが示唆された。更に、HTLV-1の出芽についても同様の解析を行った結果、このウイルスにおいてもPSAPではなく、PPxY配列がLドメインとして機能しており、Nedd4が宿主因子として機能していることを明らかにした。
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