アイチウイルスは、急性胃腸炎関連の新規ピコルナウイルスである。本研究は、アイチウイルスゲノム5'および3'非翻訳領域のウイルス複製における機能を明らかにすることを目的としている。本年度は、ゲノム5'末端に形成される3つのステム-ループ構造の機能を調査した。 我々はすでに、3つのうちの最も5'末端のステム-ループが、ウイルスRNAの複製に必須であることを示している。また、このステム構造を壊さずにステム中央部の7塩基対の配列を置換した結果、RNA複製・タンパク質合成には影響はみられないが、プラーク形成能を欠いた変異体をすでに得ていたが、今回新たに、この変異体が感染している細胞において、empty capsidの形成に影響はみられないが、成熟粒子の形成が著しく阻害されていることを明らかにした。つまりこの結果は、ゲノム5'末端の最初のステム-ループがウイルス粒子へのゲノムのパッケージングに関わっていることを示している。これは、ピコルナウイルスにおいて、パッケージングに関わる領域が同定された最初の例である。 さらに、2つ目、3つ目のステム-ループ構造に、構造を壊したり、塩基配列を変えたりするような様々な変異を導入して、ウイルス複製への影響を調べた。その結果、これらのステム-ループ構造の保持がウイルスRNAの複製に必須であることを示した。つまり、ゲノム5'末端に形成される3つのステム-ループ構造すべてがRNAの複製に必要であることが明らかとなった。さらに、RNA複製・タンパク質合成には影響はみられないが、プラーク形成能が低下している変異体も得られた。このことは、2つ目、3つ目のステム-ループ構造がRNAの複製以外のステップでも何らかの機能を有することを示唆している。
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