成人T細胞白血病ATLの原因ウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルスHTLVは宿主ゲノムに組み込まれた後、宿主の免疫攻撃から逃れるために潜伏化し、時間をかけて徐々に宿主個体にダメージ与え続ける。一方この潜伏状態は他の個体に感染細胞が移行するときに一時的に解除されると思われる。昨年度までに申請者は、レトロウイルスの潜伏化・再活性化機構の解析を、HTLVの最も近縁なウイルスであるウシ白血病ウイルスBLVを用いて行ない、このウイルスの潜伏化にはプロウイルスゲノム上の転写制御領域LTRのメチル化は関与しないことや、再活性化にPKCカスケードが関与する可能性を示してきた。本年度は数あるPKCアイソタイプのうちのどれが再活性化に重要な役割を果たしているかを調べた。ウイルスの再活性化はBLV感染ウシ血液を37℃で保温することにより速やかに起こることは昨年度に明らかにしたが、この時どのPKCが活性化しているかを各タイプの局在およびリン酸化状態を調べた。多くのタイプが採血後活性化状態である膜局在を示していた。さらに局在とリン酸化状態を同時に観察すると保温前後での差異はより著しくなり、保温後多くのリン酸化部位がリン酸化された状態で膜に局在することが明らかとなった。しかしリン酸化部位によっては逆にリン酸化状態が低下することも明らかとなった。またPKCβIIおよびPKCδ特異的阻害剤を用いて再活性化を調べると、PKCδ特異的阻害剤を用いた場合にのみウイルス再活性化が抑制された。これらの実験より、多くのPKCアイソタイプが再活性化に関与する可能性が考えられるが、その中でもPKCδが再活性化に関与する可能性が高いと思われる。この再活性化がおこる時にプロウイルスゲノム上のLTRのクロマチン状態にどのような変化が観察されるかをクロマチン免疫沈降法で解析した。しかし保温前後でLTR上でのヒストンタンパクの構成および修飾状態に著しい差異を見出すことはできなかった。このことに関しては今後詳細な検討を行なう必要があると思われる。
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