本研究では、外因性内分泌攪乱化学物質(EDCs)の中枢神経系への影響を評価するために、プロテオーム解析によるEDCs関連タンパク質分子群のプロファイリングを行う。 本年度は、まず学習・記憶の中枢となる海馬に着目し、代表的EDCsであるトリフェニル錫(TPT)を用い、次世代影響を加味した慢性暴露試験を行った。また、TPTの代謝能は「ラット・マウス>ハムスター≧ヒト」より、試験にはハムスターを用いた。 海馬より抽出したタンパク質を、高分解能を有する二次元電気泳動にて分離し、約550スポットを高感度に検出した。雄の各成長過程において、検出された各スポット量を対照群と比較したところ、親・成獣では4点、F1・成獣では9点、それぞれ発現量の変動が認められ、TPTによる海馬タンパク質発現への影響が明らかとなった。一方、F1・幼若期では発現量の変動は認められず、TPTの海馬への影響は成獣に強く現れることが明らかとなった。さらに、雌に関して検討したところ、親・成獣でのみ1点発現量の変動が認められ、TPTは雄性に強く影響する事が示唆された。 本研究により、TPT暴露による海馬タンパク質発現量の変動が明らかとなり、それによる機能影響が示唆された。また、発現量の変動が認められた各スポットは、成長過程(暴露期間)や性差を反映した形で発現しており、それらを加味したマーカー分子として期待される。現在、変動分子の同定を進めている。 最も注目すべきは、本研究で示唆された「中枢神経系に対するTPTの影響の性差」である。近年、TPTの攪乱作用としてアロマターゼ活性阻害が明らかとなった。脳アロマターゼは雄性脳への分化およびニューロステロイド合成系において重要な役割を果たす。これらアロマターゼ活性への影響を考慮し、今後、TPTの中枢影響と性差に関しその要因を明らかにしたい。
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