本年度は外因性内分泌攪乱化学物質のひとつであるトリフェニル錫(TPT)の中枢影響の解明を目的とし、1・神経毒性の有無、2・影響の性差に関し検討した。 1・昨年度、ハムスター海馬の二次元電気泳動像解析より、TPTの中枢影響を示唆する結果(タンパク質発現量の変動)が得られた。そこで、関連分子の同定を試みた。 (1)ペプチドマスフィンガープリント法および質量タグ法にて検索したところ、一部の関連分子が同定された。しかし同定された分子のみでTPTの毒性の有無を断定するには至らなかった。今後、既知の中枢神経毒性のポジティブコントロールマップを作成し、それと比較することで、未知の毒性を判断したいと考える。 2・海馬におけるTPT作用の二次元電気泳動像解析結果から、性差が示唆された。そこでTPT代謝に着目し検討した。 (1)TPTの攪乱作用は、性差を有するCYP19活性の阻害であることから、TPT代謝におけるCYP19の関与をノックアウト(KO)マウスにて検討した。in vivo投与試験より、TPT代謝活性にはWildとKO間に差は無く、代謝にはCYP19は積極的に関与していないことが明らかとなった。 (2)TPTを代謝するCYP分子種の同定を試みた。肝ミクロソームを用いたin vitro代謝試験より、主要代謝酵素はCYP2C6であることが明らかとなった。加えて、in vivo投与試験およびin vitro代謝試験からは、TPTの代謝能に性差は認められなかった。 現時点ではTPTの代謝における性差は無いと考えられる。しかし、TPTの中枢を含めた生体影響と性差に関しては明確な結果が得られていない。今後は、プロテオーム解析の利点であるポストモディフィケーション(リン酸化・糖修飾など)に着目し、さらなる解析を進めたいと考える。
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