研究概要 |
今年度の研究では、癌原生化学物ベンツピレンの解毒酵素UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)1A7の遺伝的多型が肺がん発生リスクに及ぼす影響について、同じくベンツピレンの解毒酵素であるグルタチオンs-トランスフェラーゼ(GST)M1との関連をふまえた上で、日本人の非喫煙女性集団において検討した。平成9-13年度に行った「受動喫煙と肺がんに関する症例対照研究」において、薬物代謝にかかわる遺伝子の多型解析の承諾が文書により得られた人を対象として、UGT1A7についてはUGT1A7*1とそれ以外(*2または*3)、GSTM1については欠損型、非欠損型の判定を行った。遺伝的多型と肺癌発生リスクの関連については、年齢、調査地域、配偶者による受動喫煙について調整したロジスティック分析によるオッズ比とその95%信頼区間をもとに判定した。 解析対象としたのは380人(症例157人、対照223人)で、配偶者の喫煙による受動喫煙歴をもつ割合は症例で67.9%、対照で66.2%であった。UGT1A7*1/*1を基準として、UGT1A*1を1本のみ有する集団、1本も有しない集団における肺癌罹患のオッズ比は各々1.20(0.78-1.84)、1.62(0.62-4.28)と上昇がみられたものの有意ではなかった。 UGT1A7とGSTM1、ならびに両者の交互作用項を含むモデルを構築した場合、GSTM1欠損型のオッズ比は1.32(0.76-2.28)、UGT1A7*1が1本以下の集団のオッズ比は1.21(0.64-2.30)とやはり上昇を認めたが有意ではなかった。また、両者の交互作用はオッズ比1.04(0.45-2.41)であった。 今回の研究では有意差を認めなかったが、UGT1A7,GSTM1の活性低下を伴う遺伝的多型は各々肺がん発生リスクを上昇させる方向にあり、両者の効果は相加的であることが考えられた。さらに大きな集団において解析することによりこれらの効果が有意となる可能性があり、GSTM1欠損型の集団の肺がん発生リスクにおけるUGT1A7多型の効果を中心にひきつづき検討が必要と思われる。
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