最近の医療、福祉では伝統医学(東洋医学)の診察法の有用性が認識されはじめているが、その診察法が五感による主観的情報を主としていることから、客観的な方法の検討が課題となっている。そこで、東洋医学の診察法を客観的に検証するために、東洋医学の診察と生理学的検査を経時的に観察し、両者の関連を調査した。本年度は東洋医学の診察と体調との関連性、生理学的検査(舌表面の血液循環動態、心拍、呼吸)との関連性を調査し、東洋医学の診察法の有用性を検討したので報告する。 1)東洋医学の診察所見(舌所見)と体調との関連性 東洋医学の主な診察法である舌所見(舌の色と形状)と体調の変化を捉えるための問診票(質問数96項目)との関連性を調査した。その結果、調査対象は115例の学生ボランティアで行い、舌の色、舌の形、舌苔の色などの舌所見と体調状態(愁訴の有無や程度)との間に有意な関連を認めた。例えば舌の色では舌の色が暗色を示す者は示さない者に比べて体力がなく、風邪をひき易い傾向があった。また、舌の形では歯痕(舌の側面に歯形が付着)がある者はない者に比べて身体を温めることを好んだり、温めることにより症状が軽減する傾向を示した。このように舌所見が体調と関連があり、東洋医学の舌診の有用性の一端が示唆された。 2)東洋医学の診察と生理学的検査との関連性 成人ボランティア3名を対象に、東洋医学の診察法(舌診、問診(体調の状態))と生理学的検査(舌表面の組織酸素化血液量、心拍数、呼吸数)を行い、関連性を検討した。 その結果、舌色に関係する舌表面の組織酸素化血液量は連続測定できることが判り、交感神経を興奮させる電気刺激や音刺激により、舌表面の組織血液量の増減反応(刺激数の約4割)を認めた。また、舌表面の組織血液量の増減反応には個体差があるように思われ、この反応と東洋医学の診察所見との関連性は今後の課題となった。
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