まず、作業者の動きが曝露濃度に与える影響の結果として高濃度曝露が断続して生じている例を収集するため、プッシュプル型換気装置を設置した作業場において、個人サンプラーによる連続測定結果と作業内容とについて同時記録を行った。その結果、外気からの風が作業者後方の出入口からプッシュプル換気区域へ流入した結果、作業者手前で気流が乱れて有害物が作業者呼吸域へ拡散した例が観察された。一方で溶接点が換気区域を外れて有害物へ曝露されている場合でも、作業に支障のない範囲で作業者呼吸域を移動させることにより曝露が減少した例も観測された。また、箱状の製品を扱う場合などで有害物発散源の上流側に障害物があるためにプッシュプル気流が阻害される場合でも、作業姿勢を適切に取ることで有害物が呼吸域までは達しないで除去されている例もあった。 以上のような結果等を踏まえ、呼吸用保護具を要しない作業環境のための労働衛生工学的要件として、プッシュプル型換気装置を有効に機能させるための要件を検討した。プッシュプル型換気が有効に機能しない場合としては、以下の5つの項目が抽出された。即ち、1.外乱気流の流入による一様流形成の不全、2.作業者の動作による一様流形成の不全、3.生産品の形状による一様流形成の不全、4.有害物発生源の位置不良(換気域外)、5.作業姿勢の不良である。そしてこれらについては、作業場外からの流入する気流の方向を把握して遮蔽板などを設置する対策や、作業者教育などの活用、作業手順の見直しにより、プッシュプル気流による換気の有効性を確保することが考えられた。これらのような項目をチェックポイントとすることにより、適切で効率良い有害物質処理が可能になると考えられた。本年度のこれらの研究結果は、日本産業衛生学会(2004年4月)において発表(「溶接フュームに対する有効な換気に関する研究」)し、また、現在「労働科学」誌へ論文を投稿中である。
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