研究概要 |
末梢血からCD34抗原陽性AC133抗原陰性細胞を分離し、赤血球系細胞に成熟分化させるシステムを用いて血液型遺伝子の転写開始点を調べた。その結果、新たな転写開始点をエクソン1の上流約0.7kbに同定した。また、エクソン1と新たな転写開始点エクソン1aはともに赤血球系細胞と上皮系細胞の両方において転写開始のエクソンとなっていることをすでに報告している。エクソン1aの塩基配列には、翻訳開始点のATGコドンを含んでいないことから、エクソン1aからの転写産物はグリコシルトランスフェラーゼとして機能的に働くことができるかどうかを検討した。先の実験で得られたエクソン1aを含むcDNAを基にタンパク発現ベクターを作製し、胃癌培養細胞におけるA抗原の発現をFACSを用いて検討したところ、A抗原の発現が認められた。エクソン1aからの転写産物の翻訳開始点を調べたところ、エクソン2からエクソン6に3箇所の推定翻訳開始点が存在していた。N末端側からそれぞれの翻訳開始点の直前までを欠くタンパク発現ベクターを作製し、同様にA抗原の発現をFACSを用いて検討した。その結果、抗原の発現にはABO血液型合成酵素のN末端の23〜52番目のアミノ酸領域が必要であることが明らかになった。ABO血液型合成酵素hは355アミノ酸残基から成り、N末端側の17〜37番目のアミノ酸領域はtransmembrane domain、α-1,3-galactosyltransferaseとの相同性からN末端側の76〜355番目のアミノ酸領域はcatalytic domainと推定される。先のN末端の23〜52番目の発現には、transmembrane domainの一部が含まれることから、ABO抗原の発現にはtransmembrane domainが重要であることが示唆された。
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