法医鑑定業務において、覚醒剤濫用の有無が問題となる場合、当教室では血液、尿を試料とした定性、定量分析により試料採取時における覚醒剤濫用の程度・状態を調査し、一定の長さごとに切断した毛髪を試料とした分析により、過去の長い時間経過における覚醒剤濫用歴の推定をおこなっている。しかしながら、覚醒剤が毛髪中に移行した後は主に髄質にとどまり、長期にわたり安定であることは知られているが、そこにとどまる理由は未だ明らかにされていない。また毛髪の太さには個人差があることなどから、毛髪中濃度を測定しても定性的な判断をしうるのみで、他部位や、他人の太さの違う毛髪の数値とを一律的に比較することは現段階では困難である。このようなことから、本研究の目的は、覚醒剤が毛髪髄質中でどこにどのように分布しているかを解明し、毛髪の断面積、毛髪断面中の諸構成成分の面積、毛髪断面中の覚醒剤分布面積等と毛髪中覚醒剤濃度との関係を明らかにすることである。この初期段階として、本年度は過去に当教室でおこなった鑑定時に採取した毛髪について、GC-MS法により毛髪中覚醒剤濃度測定を行い、高濃度のメタンフェタミンを含む毛髪について透過型電子顕微鏡を用いた観察に使用する薄切切片を作製し、例数を重ねているところである。また、免疫電顕法に用いる抗メタンフェタミン抗体及び金コロイドプローブを調整するとともに、切片作製時の固定法選択、抗体等の反応試薬の濃度調整などを種々試し、最適な条件を検討中である。
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