研究概要 |
5,10-Methylenetetrahydrofolate reductase (MTHFR)は葉酸代謝における主要な酵素である。MTHFR遺伝子にはC677多型、A1298C多型があり、いずれも変異により酵素活性が低下し、特に677Tアレルでは血清葉酸濃度が減少することが報告されている。したがってこれらの遺伝子多型はMTXの臨床有用性に何らかの影響を与える可能性がある。我々は関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis, RA)を対象にMTHFR遺伝子多型がMTXの効果・副作用に与える影響を検討した。(方法)当センターを受診したRA患者からMTX服用暦のある106例を無作為に抽出し、インフォームドコンセントを得た後、末梢血からゲノムDNAを採取し、MTHFR遺伝子型をすでに報告されている方法を用いてPCR-RFLPで検討した。またEMアルゴリズムに基づいて作成されたプログラムであるLDSUPPORTを用いてハプロタイプを推定した.対象患者においてMTXは2.5mg/週〜7.5mg/週で開始され、臨床効果に応じて増量された。MTXの有効性はMTX5mg/週で開始された症例における投与前後3ヵ月間の圧痛関節数、腫脹関節数、CRP値、赤沈値の比較で検討した。またMTX投与量の増加症例数も検討した.これらの有効性の指標および調査期間中に生じた副作用とMTHFR遺伝子型の関係をretrospectiveに検討した。(結果)観察期間中に19.8%の症例で副作用が認められた。副作用の発症をMTHFR遺伝子型別に検討すると、C677T多型の677Tアレルを有する症例で副作用発現が有意に高頻度であった(p<0.05,relative risk[RR]=1.25, 95%CI 1.05-1.49)。有効性との関連では、A1298C多型のCアレルを有する症例でCRP値、赤沈値が有意に改善していた(p<0.05)。また、MTX 5mg/週以下で投与開始した症例において、最終評価時のMTX投与量が5mg/週以下であった症例数はA1298C多型のCアレルを有する症例で有意に多かった(p<0.05,RR=2.18, 95%CI 1.17-4.06)。一方、C677T多型では有効性との関連は認められなかった。ハプロタイプの検討の結果、副作用との関連では677T-1298Aハプロタイプが有意に高頻度であり(P<0.05,RR=1.42, 95%CI 1.11-1.82)、677C-1298CハプロタイプはMTXの有効性に関連していることが示された。Pharmacogenomicsに基づくオーダーメイド医療により、RA薬物治療の効果を高めることができると考えられる。今回の結果からMTHFR遺伝子の検討が有用であることが示唆された。
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