研究課題
この研究で、H.pyloriが産生するアポトーシス誘導蛋白を精製し、その蛋白の同定を行うことに成功した。この蛋白は、これまでに知られているH.pyloriの病原因子とは全く違うものであるとともに、H.pyloriによる宿主細胞のアポトーシスの誘導に大きな役割を果たすものであることが分かった。この蛋白は、γ-glutamyl transpeptidase (GGT)であることが分かった。GGTがアポトーシス誘導に関与しているということはこれまでに報告がなく、新しい知見である。GGTは一般的にグルタチオンなどのγ-glutamyl基を含む物質からglutamyl基を遊離し、他のアミノ酸に転移する活性を持つとされるが、H.pyloriのGGTのアポトーシス誘導活性には基質としてグルタミンが関与していることが示唆された。なお、GGT活性はH.pyloriの特徴的な生化学的性状の一つで、この菌の同定の際の指標にもなるとされている。我々も臨床分離株83株について調べたところ、全ての株がこの蛋白を産生していた。このことは、全てのH.pyloriがアポトーシス誘導活性を持つことを示唆する。HP1118遺伝子を欠損させたisogenic mutant株は、親株に比べてアポトーシス誘導活性が有意に低かったため、GGTはH.pyloriのアポトーシス誘導活性の中で重要な役割を果たすものの一つであると考えられた。この研究により得られた結果はこれまでの常識を覆す側面を多く含んでおり、H.pyloriの病原性の研究に新たな突破口を開くとともに、今後の発展が非常に期待できるものである。
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