Fibroblast growth factor(FGF)-7は増殖因子として知られているが、FGF-7を投与すると動物モデルにおいて消化管の杯細胞の増生が認められる。このことから我々はFGF-7が消化管上皮の杯細胞への分化誘導作用を持つのではないかと考えその解析を試みた。ヒト大腸がん細胞株HT-29のサブクローンであるH2細胞株はin vitroにおいてグルコース添加培養液下で培養中は未分化の状態を維持するが、グルコースを除くとgoblet cell(杯細胞)に分化を誘導できることが知られている。まずこの未分化なH2サブクローンにFGF-7による刺激を与え、杯細胞特異的な発現マーカーであるムチン(Muc-2)及びIntestinal trefoil factor(ITF)の発現について調べた。その結果、ノーザンブロット及びウェスタンブロット法によりMuc-2及びITFの発現誘導が認められ、FGF-7がin vitroにおいて杯細胞分化誘導作用を持つことが示された。次にこの分化誘導シグナルについて解析をおこなった。FGF-7刺激によって杯細胞への分化を誘導し、H2サブクローンにおけるFGFレセプター(FGFR)のチロシンリン酸化及び発現量についてウェスタンブロットで調べたところ、刺激後H2細胞株のFGFRはただちにチロシンリン酸化され、およそ48時間後にはFGFRの蛋白レベルでの減少を認め、分化誘導シグナルによってFGFRのdown-regulationがおこることが明らかになった。つまりFGFRを介した杯細胞分化誘導シグナルはシグナル伝達後FGFRの発現を抑制するというネガティブフィードバック機構の存在が示唆されたことになり、これは消化管上皮の恒常性保持において非常に重要な意味を持つ機構と考えられた。
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