研究概要 |
昨年までに我々は、HCVの塩基置換が中立説に基づき一定であることを証明した(Tanaka Y, Proc Natl Acad Sci USA,2002)。この手法により、日米におけるHcv拡散時期に約30年の違いがあることが明らかとなり、HCV感染後の期間が肝細胞癌発生の重要なリスクファクターの一つと考えると、今後米国におけるHCV関連肝細胞癌症例数が現在の日本のように増加していくことが予測された。今年度は、日本同様HCV関連肝細胞癌の増加が問題となっているエジプトやウズベキスタンの研究者との共同研究を行い、HCV遺伝子配列を新たに多数決定した上で、HCVのpopulation sizeの解析を行った。その結果、エジプトでは1940年から1980年にかけてHCV感染は急増しており、住血吸虫に対する経静脈的治療のNational campaignsの時期とほぼ一致した結果を導き出している(Tanaka Y, J Mol Evol,2003)。ウズベキスタンにおいても1960年以降HCV感染の増加が見られ、戦後の混乱期における薬物濫用やその国の医療事情との関連性が示唆された。こうした解析により、疫学的なデータだけでは予測できない過去のHCV感染状況が推測可能となり、将来的なHCV関連肝細胞癌の推移を予測することも可能ではないかと考えている。 肝病態の進展に伴うウイルス遺伝子変異パターンを明らかにするために、長期経過観察されているHCV感染患者のシリーズ検体を用いて、自然経過での変異パターンを検討した。特に、最近開発された国立遺伝学研究所のプログラムを用いて病態に関連するアミノ酸座位に関しても解析を進めている。すでにいくつかの変異パターンを同定し、現在投稿準備中である。こうした解析により、ウイルス遺伝子及びアミノ酸の病態への関与を明らかにし、今後は変異パターンを基にした新規治療ワクチンの開発にも役立てたいと考えている。
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