肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor、以下HGF)はhepatotrophic factorとして同定されたが、上皮増殖因子としても機能するため、trinitrobenzensulfonic acid (TNBS)で惹起した炎症性腸疾患動物モデルに対するHGFの治療効果を検討した。方法は、10週齢のmale Wistar ratに15mg/ml TNBS in 20% ethanolを0.5ml注腸した。同時に浸透圧ポンプを腹腔内に埋め込み、recombinant human HGF(三菱ウエルファーマより供与)を0.2mg/day持続投与した。0、1、3、7日目に採血し、血中HGF濃度をELISA法で測定した。7日目に屠殺し、潰瘍面積を測定した。組織学的な潰瘍の深さと炎症の程度をスコア化し、上皮増殖能についてはKi-67免疫染色を施した後labeling index (LI)を算出した。急性炎症の指標として粘膜のmyeloperoxidase (MPO)活性をο-dianisidine法で測定した。結果は、血清HGF濃度は1日目(25ng/ml)をピークとして、7日目(15ng/ml)まで血中濃度の維持されているのが確認された(各n=3)。潰瘍面積及び潰瘍の深さはそれぞれ35vs21mm^2、1.5vs1.0(control群vs HGF投与群、n=12vs13)とHGF投与群の方が低値を示したが、統計学的有意差はみられなかった。組織学的な炎症の程度、Ki-67 LI、MPO活性はそれぞれ、3.1vs2.8、51vs52%、3.8vs3.6U/g tissueとほとんど変化なく、統計学的有意差はみられなかった。治療効果が得られなかった理由として、腸炎を惹起した後の数日間HGF receptorであるc-metがdown-regulatedされていた可能性や、TNBS腸炎モデルにおける腸炎のばらつきによる可能性が考えられる。今後モデルの改良による安定化とともに、投与時期の再検討、c-metの経時的変化を観察した上で、再度検討することが必要と考えられる。
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