研究概要 |
【目的】炎症性腸疾患の原因ははサイトカインの不均衡が一因と考えられている。炎症性腸疾患におけるサイトカインの細胞膜上のレセプターから、核内のシグナル伝達経路を調べること(JAK/STAT経路、MAPK経路)、シグナル伝達阻害剤を治療に応用できるかを検討することは大腸炎の病態解明や治療に大きな進歩をもたらすことが示唆される。 【方法】 (1)各種腸炎マウス(TCR-/-,IL10-/-,TNBS, DSS, CD45RBhigh transfer)の腸粘膜における転写因子(STAT, MAPK, EAK,及びCIS/SOCS ; SSIファミリー)の発現をWesten blotting, Northern blotting、発現部位を免疫染色で検討した。 (2)IBD患者での腸粘膜でのphospho-STAT3の局在を免疫染色により検討し、UCHL1(T細胞),L26(B細胞),CD68(マクロファージ)抗体を用いた免疫二重染色により、phospho-STAT3陽性細胞の種類を解析した. クローン病モデルであるSAMP1/Yitマウスでの腸粘膜での各種STATの発現を検討し、HyperIL-6(IL-6+可溶性IL-6R),可溶性gp130をin vivoで投与し、腸炎の重症度の変化を観察した. 【結果】 (1)各種腸炎マウスの腸管では主にSTAT3,STAT1,P38MAPK, EAK, JNKの活性化を認め、JAK-STATの抑制因子であるCIS3の高発現を認めた。特にSTAT3の著明な活性化を認めたが、CD45RBhigh transferマウスの腸管ではSTAT1の活性化が認められるなどモデルマウス間において発現パターンの違いが認められた。 (2)IBD患者の腸粘膜では活性化STAT3の高発現がみられ、その局在は上皮細胞と浸潤単核球(T-cell, B-cell, Mφ)に一致していた. SAMP1/Yitマウスでは、hyperIL-6投与によりSTAT3活性化の促進とともに腸炎が増悪し、可溶性gpl30投与によりSTAT3活性化の抑制とともに腸炎が軽快した. 【結語】 腸炎組織において様々なシグナルが活性化しており、そのバランスが腸炎の特異性に関係していることが考えられた。その中でも、STAT3シグナルが、リンパ球,上皮細胞において、腸炎の病態に重要な役割を果たしており、その制御が治療に応用し得る可能性が示唆された.
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