GS-Xポンプ(glutathione S-conjugate export pump)は細胞膜に存在するATP依存性の排出ポンプであり、グルタチオン抱合された抗癌剤などを排出するポンプとして知られている。その分子解明に関しては、Coleらによりヒト肺癌細胞アドリアマイシン耐性株から分子量190KDaの多剤耐性関連タンパク質(multidrug resistance-associated protein : MRP)が見い出され、MRP1遺伝子がヒトGS-Xポンプの一つをコードしていることが明らかにされている。そしてGS-Xポンプはその生化学的特徴としてグルタチオン抱合体であるロイコトリエンC4を内因性基質として同ポンプより排出する。そこで、本研究ではこのGS-XポンプがロイコトリエンC4を排出することで気管支喘息の病態に関与しているという仮説をたて、気管支喘息患者の気管支粘膜組織におけるMRP 1の発現およびその局在を免疫組織染色により検討した。経気管支鏡的に気管支粘膜生検を施行し、採取された気管支喘息患者群12症例および健常者コントロール群の病理組織におけるMRP 1の発現を見たところ、気管支喘息患者群の気道上皮細胞および粘液腺房細胞、そしてマスト細胞などにMRP 1の発現が認められた。 GS-Xポンプに関する研究は国内外の多くの施設で精力的な研究がなされているが、その多くが抗癌剤耐性および細胞内グルタチオン解毒機構との関連であり、気管支喘息症例のヒト気管支粘膜組織におけるGS-Xポンプの発現および機能に関する報告はない。今年度は気管支粘膜生検の病理組織で検討したが、今後はさらに喘息重責発作での剖検症例も用いてさらにMRP 1の発現の局在を詳細に検討する予定である。また現在、喘息モデルとしてMRP 1ノックアウトマウスを卵白アルブミン(OVA)で吸入感作し、気道過敏性および気道形態におよぼす影響をワイルドマウスと比較検討する実験も計画しており、臨床検体、実験動物モデルの両面から気管支喘息におけるMRP1の発現および機能的役割を究明することを次年度の目標とする。
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