本年度は、当初の計画通り当研究所において当研究所において解剖・病理組織学的診断が行われ、適切な形で保存されてきた20例のタウオパチー(進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症、Pick病)および正常対照例を対象とし、個々の症例の凍結脳組織よりゲノムDNAを抽出、PCR法によってタウ遺伝子を増幅し、exon1を中心としたタウ遺伝子の検討を行った。この結果、exon1における第5コドンの異常は、何れのタウオパチー例および正常対照例においても認められなかった。この結果は、本研究者が新たに発見し報告した、高齢発症frontotemporal dementia(FTD)例におけるArg5Hisの遺伝子変異が、正しくこの疾患固有のものであることを証明するものと考えられた。同時にこの結果は、当研究所におけるタウオパチーの診断の妥当性を示しているものと考えられた。またこのことは、前述の高齢発症FTDにおいて、これら既知のタウオパチー症例とは類似性は有するものの微妙に異なる病理組織学的および分子生物学的所見が、まさにこの遺伝子変異に特異的なものであると考える有力な証左となった。 今年度の研究では、タウ遺伝子第5コドンの変異を有する症例は認められなかったが、この変異は臨床的に高齢発症で、明確な家族歴が得られにくいといった特徴を有しており、アルツハイマー病や単に老年痴呆とされていた症例の中に同様の遺伝子変異を持つものが、今後発見される可能性が考えられる。次年度では更に症例を増やすとともに、第5コドン以外の部位における変異の有無を検索する必要があると考えられる。また、タウオパチーの病態メカニズムを解明するために、脳の各部位におけるタウmRNAの発現についての検討を行う予定である。
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