19qにはグリオーマ腫瘍抑制能を有する片親性発現遺伝子の存在が示唆されている。Differential methylated region(DMR)は多くのインプリント遺伝子に存在し、新規インプリント遺伝子の同定の有用な指標となりうる。近年メチル化DNA結合カラムクロマトグラフィーを用い同定されたヒト肺組織におけるDMR候補領域の情報をもとに、親起源の明らかなヒト19番染色体を1本保持するマウスA9雑種細胞株を用い、19番染色体上のDMRを検索した。各細胞株より抽出したゲノムDNAをメチル化感受性制限酵素で消化した後、アレル間のメチル化状態をPCRにて解析を行い、19q13.4の約380kb領域内に母方染色体特異的にメチル化状態にあるCpGアイランドを6ヶ所同定した。それらのCpGアイランド近傍に位置する転写物の正常ヒトリンパ芽球様細胞における発現様式を検索し、父性発現を呈する遺伝子を一つ、母性発現を呈する遺伝子を一つ同定した。さらにRACEとRT-PCRを行い、両遺伝子の全長を明らかにした。父性発現遺伝子はC2H2型ジンクフィンガーモチーフを有するタンパク質をコードする遺伝子であり、ヒト正常脳組織における刷り込み状態には個体差が認められた。本領域はヒト19番染色体上の新たなインプリンティングドメインである。さらに同定した2つの新規遺伝子はグリオーマ細胞株9株中2株において発現が低下していた。インプリント遺伝子の発現制御部位であると考えられる2つのDMRのメチル化状態をBisulfite sequencing法により解析したところ、いずれのグリオーマ細胞株も非癌部脳組織に比べ高度なメチル化状態にあった。同定した新規インプリント遺伝子は脳腫瘍形成に何らかの役割を果たすことが考えられた。
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