本年度は、周産期におけるニューログリカンC(NGC)蛋白質の発現の変化を成獣ラットと比較した。 ラットの胎生15、16、18日目、生後1、7、10日目の脳を4%パラホルムアルデヒドを用いて潅流固定し、パラフィン切片を作製した。これらの組織標本を抗NGC抗体を用いて染色したところ、胎生期の脳のNGCは放射状グリア細胞で発現しており、放射状グリア細胞に添って移動している神経細胞には発現が見られなかった。一方、皮質に移動した神経細胞で樹状突起や軸索の伸展を開始した神経細胞にはNGCの強い発現が観察された。また、生後7、10日目の脳のNGCの免疫染色結果の観察から、神経細胞周囲に班点状の染色像が広範囲に渡って観察された。これはNGCが樹状突起のスパインに局在しているという培養細胞から得られた結果と一致する。 これまでに申請者は、ラット胎仔の海馬由来の培養神経細胞を用いて、樹状突起に加え軸索にもNGCを発現する神経細胞の存在を明らかにしているが、その詳細は不明であった。今回、生後7、10日目の脳の観察からNGCの免疫反応が海馬采、海馬交連、脳弓などに見られることから、NGCは少なくとも海馬からの遠心性線維、すなわちCA1後部、およびCA3の錐体細胞の軸索に存在することが示された。逆に海馬の介在神経細胞はNGCを軸索に持たないと考えられる。 さらに、蛍光蛋白質と軸索に局在するNGCのスプライスバリアントの膜貫通領域から細胞内領域までをつないだキメラ分子を培養神経細胞に発現させた。その結果、このキメラ分子は軸索に局在することを見いだした。このことからNGCの細胞内領域に、その細胞内の局在を制御する配列が存在することが明らかになった。
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