イヌ高頻拍性慢性心不全モデル(n=35)を用いて、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)とアンジオテンシン受容体拮抗剤(ARB)の併用療法が、内因性ブラジキニン(BK)の増強作用により、心収縮及び拡張能を改善するかどうかコンダクタンスカテーテルとマイクロチップマノメーターを用いて検討した。ACEI(enalapril)とARB(candesartan)の併用療法群においては、それぞれの単剤投与群に比し、左室の後負荷、前負荷を減少させるだけではなく、左室収縮能を有意に改善した。また、左室拡張能においては、左室弛緩能の著明な改善だけではなく、左室のstiffnessの低下を認めた。血清BK濃度は併用療法群において著明に上昇しており、また左室のBK B2受容体は有意に発現が亢進していた。このように、ACEIとARBの併用療法における心血行動態改善に、内因性BKが重要な役割をしていることが示唆された。さらに、血清アルドステロン濃度が、併用療法において著明に低下していることより、左室の線維化が抑制されているかどうか検討した。併用療法群においては、左室の線維化は有意に抑制され(Picrosirius red染色)、左室のcollagen I&IIIのmRNAは有意に低下(RT-PCR)していた。以上より、非ACEのアンジオテンシンII産生経路(chymase etc.)を持つ慢性心不全犬において、ACEIとARBの併用療法は、それぞれの単剤療法に比し左室機能を改善し、左室の線維化を抑制することが示された。その機序として、内因性BKの作用の増強、アルドステロンの抑制が関与している可能性が示された。
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