主要な炎症性サイトカインのひとつであるtumor necrosis factor-α(TNFα)による慢性刺激によって生じる心筋症(心不全)マウスモデル:心筋特異的TNFα過剰発現トランスジェニックマウス(TNF1.6マウス)を用いて、エストロゲンの心臓保護効果を検討して以下の知見を得た。 1.TNF1.6マウス表現形に於ける性差(オスマウスにおけるより重篤な心不全の進展)がestradiolの長期投与によって緩和されることを明らかにした。すなわちオスTNF1.6マウスを長期的にestradiolで治療した場合、長期生存率を有意に改善することができた。また同時に心エコー図法によって求められる心機能指標の改善(左室内腔径の縮小、左室駆出率の増大など)と、病的心筋蛋白発現の是正(ANF発現の低下、αミオシン重鎖の発現増加とβミオシン重鎖の発現低下など)を認めた。 2.心筋保護作用をもつことで知られる蛋白(heat shock proteins(hsps))の局所(心筋組織内)での発現が、estradiol投与によって増大することを明らかにした。このことがエストロゲンの心筋保護効果発現のメカニズムの一つである可能性が示唆された。 これらの新たに得られた知見をふまえ、心筋細胞においてエストロゲンがhsps発現を誘導する、あるいはストレス刺激によるhsp産生の増強効果のメカニズムについて、ラット培養心筋細胞を用いたin vitroの手法で明らかにするべく、HSF-1ゲルシフトアッセイなどを計画中である。
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