1.プレコンディショニング(PC)のスタニング軽減効果とPKC活性化、GLUT4発現亢進との関連 心筋スタニングすなわち再灌流により壊死を免れた心筋細胞の持続性の収縮機能障害は、心筋梗塞後における心不全の原因として重要である。本研究では(1)PCのスタニング抑制効果は虚血障害自体の軽減によること、(2)PC虚血後にはPKC-ε活性化ならびにAMPkinaseの活性化が誘導され、PC3時間後には、GLUT4のmRNAが約7倍、24時間後にはGLUT4の蛋白レベルが約2倍に上昇すること、(3)PCのスタニング軽減効果ならびにAMP kinase活性化、GLUT4発現亢進がPKC阻害薬で遮断されること、を観察した。したがって、PCのスタニング軽減効果の機序には、PKC-ε、AMP kinaseの活性化に引き続いておこるGLUT4の発現誘導が、心筋細胞の糖の取り込みを亢進させることが関与していると推察された。これらの成績は第24回欧州心臓学会、第67回日本循環器学会において発表し、Cardiovascular Researchに掲載された。 2.梗塞後のリモデリングによるPC機構の破綻とPKC活性化との関連 梗塞後慢性期患者の予後不良の一因に梗塞後のリモデリングによるPC効果の破綻が寄与している可能性を以前に報告したが、このPC機構の破綻の機序として、(1)梗塞後のリモデリング心では虚血によるPKC-ε活性化が誘導されないこと、(2)アンギオテンシン受容体拮抗薬でリモデリングを抑制すると、虚血によるPKC-ε活性化がおこりPCの梗塞抑制効果が温存されること、(3)リモデリング心においてG蛋白連関受容体やK_<ATP>channelの機能は保たれていること、を観察した。したがって、PCの梗塞抑制においてPKC-ε活性化が重要であり、梗塞後リモデリングの過程でG蛋白連関受容体刺激からPKC-ε活性化いたる情報伝達が障害されることがPC機構破綻の機序と推察された。これらの成績はMoleular and Cellular Biochemistryに掲載された。
|