全身の細胞でβガラクトシダーゼを発現するROSA26マウス(8週齢)の大腿骨より骨髄細胞を分離・調製し、致死量の放射線を照射した同腹野生型マウス尾静脈より注入して骨髄移植モデルを確立した。移植を受けたマウスは生存し、移植4週後に各臓器への骨髄由来細胞の生着をX-gal染色で検討すると、脾臓にはX-gal染色陽性細胞が認められたが、心臓には認められなかった。移植5週後に脾臓を摘出し、さらに3週後に冠動脈虚血再灌流術を施行することにより心筋梗塞を作成した。虚血再灌流術の4週後に組織所見を検討すると、心筋梗塞巣の辺縁部には一部集簇して、また健常心筋部にも孤立性にX-gal染色陽性細胞が確認された。βMHCに対する抗体を用いた免疫組織染色と合わせて検討すると、X-gal陽性細胞の一部は心筋細胞と考えられた。しかし、その出現頻度はX-gal陽性細胞は全細胞中の0.02%、その中でβMHC陽性のものは約9%と極めて少なかった。上記のように本年の検討の結果では、心筋梗塞治癒過程において骨髄由来細胞が梗塞巣で増殖し一部心筋細胞に分化する可能性は示唆されたが、その頻度は他施設から報告されているほど多くはなく、少なくとも特別な介入のない限り心筋梗塞後の心機能に関与しうる頻度ではないと考えられた。この点に関して、最近心筋梗塞後の心機能維持に効果があることが報告されているサイトカインやホルモンを含め、種々の液性因子や増殖因子、心血管作動薬などをこのモデルに投与してさらに心筋細胞再生に対する効果を検討していく予定である。
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