研究概要 |
IgA腎症は日本において最も頻度の高い慢性腎炎で,小児,成人ともに重要な疾患である。本症の遺伝子的背景として増悪因子の報告はいくつかあるが,発症因子については未だに報告がない。近年,ウテログロビン(UG)遺伝子のノックアウトマウス,やアンチセンス導入マウスがヒトIgA腎症類似の病変を呈することが報告された。我々はUGのヒトIgA腎症における役割に注目し,分子生物的手法を用いて研究した。その結果UG遺伝子異常としては38番目のグアニンからアデニンへの変異(G38A)が検出され,そのホモ接合体は,特に小児例において高頻度に認められた。病理学的検討では成人においてG38Aホモ接合体の患者の組織障害が高度であった。血清UG値に関しては,成人女性においてG38Aホモ接合体の患者がwild type,ヘテロ接合体に比べて有意に低値を示した。 また,血清IgA値が極めて高値を示した男児のUG遺伝子,血清UG値,組織障害について検討し報告した。その結果,UG遺伝子に関してはG38Aヘテロ接合体であり,血清UG値は2.19μg/lと比較的低値を示していたが腎組織障害は軽度であり,IgAの沈着も中等度であった。IgA腎症の組織障害,IgAの沈着度合いは,血清中のIgA値は無関係で,UGやフィブロネクチンの濃度が組織障害と関係がある可能性が示唆された。 これらのことからIgA腎症の中には,UG遺伝子異常が原因となる一群が存在する可能性があると考えられる。特に様々な因子の暴露が少ない小児例を検討することで,発症因子に関する遺伝的背景を発見できる可能性があると考えられる。今後症例数をさらに増やし検討していく。
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