心筋梗塞後の心拡大や心機能低下の程度は最初の虚血障害の強度とそれに引き続く心筋リモデリングのプロセスに依存している。心筋梗塞における心筋リモデリングは蛋白分解活性によって特徴付けられる細胞外基質の変化、とりわけ心筋組織のコラーゲン線維への置換が重要である。実際、ヒトでの観察や動物モデルでの解析では白血球由来のセリンエラスターゼやマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)が心不全における左室リモデリングに重要な役割を担っていることが示された。セリンエラスターゼが心筋梗塞の際に上昇し、急性期の心拡大や引き続く繊維化、心不全といった心筋リモデリングと関連しているという仮説のもとに、セリンエラスターゼ阻害因子の一つelafin過剰発現マウスを用いて冠動脈結紮による心筋梗塞モデルを作成してこの仮説を検証した。セリンエラスターゼは冠動脈結紮の対照マウスにおいて6時間後に有為に上昇を観察でき、それは4日後、7日後も持続していた。一方elafin過剰発現マウスではほぼ完全に抑制されていた(P<0.05)。炎症細胞浸潤の指標としてのミエロペルオキシダーゼ活性は、両群とも6時間後に有為な上昇を認めたが、4日後、7日後のelafin過剰発現マウスでは対照マウスに比べて抑制されていた(P<0.05)。冠動脈結紮4日後の超音波で計測した左室拡張末期径はこれらの酵素活性の上昇と関連し、対照マウスでのみ有為に拡大を認めた(P<0.05)。病理組織学的検討ではelafin過剰発現マウスで線維化面積の縮小が観察された(14日後、P<0.03)。さらに28日後のカテーテルによる検討では、elafin過剰発現マウスで心筋収縮力(max oP/dt)は保持されていた(P<0.05)。以上の結果より、心筋梗塞後早期のセリンエラスターセ活性化がその後に引き続く炎症反応と急性期心拡大、心筋繊維化に関連していることが示唆された。
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