研究概要 |
【目的】B型肝炎母子感染防止事業によりB型肝炎ウイルス(HBV)母子感染率は劇的に減少したと報告されているが,予防処置をうけた例の長期予後に関しては未だ不明である。また,近年,PCR法の導入により血清学的検査で陰性のHBV感染例の存在が明らかになってきており,現行の予防処置をうけた児が潜在的にHBVキャリアになっている可能性は否定できない。このため私たちはHBs抗原陽性妊婦より出生した児におけるHBVの検出を行った。 【対象・方法】当科でHBV母子感染予防処置を受け,血清学的に予防できたと考えられた41例を対象とした(母体e抗原陽性: eAg+ 30例,陰性: eAg-11例)。HBV DNA量(real time PCR法)を生後1-2ヶ月,5-7ヶ月,9-18ヶ月で測定した。 【結果】HBV DNAはeAg^+で18/30(60%),eAg-で3/11(27%)で検出された。ワクチンに対する反応性と検出率の間に有意な関連はみられなかったが,HBV DNA量が10^4/ml以上で検出された例は,ワクチン反応良好例(HBs抗体価10COI以上持続)で1/18(5.6%),抗体低下例,HBc抗体再上昇例では8/23(34.8%)と有意差を認めた。 【考案】母子感染予防処置例からも高率にHBVが検出されたことより,HBVは予防処置によってもその移行は完全には防止できていないと考えられた。しかし,移行したHBVが将来増殖するのか,そのまま消失してしまうのかは長期的な検討が必要である。また,移行したHBVは抗体に対する反応性の低いHBs escape mutantの可能性があり,今後検出されたHBVの遺伝子配列を検討する予定である。
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