Calreticulinは心筋細胞の発生に重要な役割を果たしているカルシウム結合タンパクである。本研究ではcalreticulinの発現レベルを心臓発生の各段階において調節できるトランスジェニックマウスを作成した。まず、Cre-loxPシステムを用いたトランスジーンによる発現調節系を作成した。私が作成したこのトランスジーンは、loxP配列間に存在するストップコドンを持つ。そのloxP配列の5'側にユビキタスなプロモーター、3'側にcalreticulin cDNAをコードしており、calreticulinの過剰発現を抑制している。このトランスジーンを用いて、in vitroでCre recombinaseを発現させることにより、calreticulinの過剰発現を誘導できることを確認した。このトランスジーンを用いて、トランスジェニックマウスを作成した。このトランスジェニックマウスと心臓特異的なCre recombinase発現マウスとの交配を行ない、心臓特異的にcalreticulinが過剰発現しているマウスを作成することに成功した。このマウスは成体において心臓に野生型の約20倍のcalreticulinを発現している。しかもこのマウスは生後6-8週に進行性の徐脈性不整脈を起こして死亡することが明らかになった。一方、私がこれまでに作成したcalreticulin欠損マウスを用いて、この欠損マウスの心臓発生の異常が、細胞質に存在するカルシウム結合タンパクであるcalcineurinにより調節されていることを明らかにした。Calreticulin欠損マウスは、心臓の発生異常により胎生致死である。しかし、calcineurinシグナルが常に活性化しているトランスジェニックマウスとの交配により、calreticulin欠損マウスに活性型calcineurinを発現させた。すると心臓の発生異常を示す表現型が軽減され、出生後も生存しているマウスが出現した。このマウスを用いて心臓以外の組織におけるcalreticulin欠損の影響を確認した。すると低血糖、高脂血症などの代謝異常を起こすことが明らかになった。
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