ジストロフィン遺伝子変異解析において従来のスクリーニング法で異常が検出されなかった症例につき、mRNAの直接塩基配列決定法にて微小変異を同定することから着手した。効率的な解析を目指し、mRNA抽出のカラムキットによる簡便化や、使用するprimerの条件の最適化を検討することにかなり時間をかけた。現在、exon 9-18のprimerでのRT-PCRにおいてスプライシング異常バンドが生ずる症例と、exon 53-54の欠失がある症例が見つかっており、更なる原因を検索中である。 また、骨格筋細胞移植および遺伝子治療の実現に向け、筋ジス患者由来の筋衛生細胞の培養系における治療効果判定の指標を検討した。筋生検または剖検時の筋組織から筋衛星細胞の初代培養を得た後、筋細胞クローン培養、あるいはSV40による株化を行った。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)筋、Becker型筋ジストロフィー(BMD)筋、コントロール筋につき、増殖期の筋芽細胞と分化期の筋管細胞を分析した。細胞骨格蛋白に対する免疫組織染色では、ジストロフィンは筋芽細胞の段階ではいずれのサンプルにも発現はなかった。筋管細胞になるとコントロールとBMDでは細胞質に発現を認めたが、DMDでは発現しなかった。ジストログリカンはすべてのサンプルで筋芽細胞より細胞質に発現がみられ、分化により発現が上昇した。メロシンはすべてのサンプルで明らかな発現はなかった。一方、ジストロフィンmRNA発現量の経時的変化をとらえるため、比較定量RT-PCRを施行した。発現量はいずれのサンプルでも筋芽細胞よりも筋管細胞で増加する傾向があり、その程度はコントロールで約13倍、BMDで約12倍になるのに対し、DMDでは約2倍と低かった。筋管細胞同士の比較では、コントロールに比しBMDでは約6倍であったが、DMDでは約1/2の量であった。同様に、生検(or剖検)筋組織におけるmRNAの発現量を調べると、コントロールに比しBMDでは約4倍、DMDでは約0.3倍の量と、培養細胞での結果とほぼ同じ傾向を示した。以上より、DMD筋細胞では培養系においてもジストロフィンの発現が障害されており、細胞レベルでの治療の指標として応用が可能であると考えられた。
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