本年度は、作製したアデノウイルスベクターを用い、表皮角化細胞の分化へのRAIの関与について解析した。未分化な表皮角化細胞にRAIを強制発現させ、表皮角化細胞の分化のマーカーの増減を解析した。しかし、RAIの強発現による細胞の形態の変化は認められず、Western blot法によっても分化マーカーおよび、上記の分化に伴い変化のあった蛋白群の発現には変動を認めなかった。そこで、分化刺激を与えた状態でのRAIの関与を検討した。アデノウイルスベクターによりRAIを強発現させたあと培養表皮角化細胞の培養液のカルシウム濃度を高くすることで分化刺激を与えた。その後経時的にRNAを回収し、mRNAレベルでの分化マーカーの変動について検討した。すると感染させるアデノウイルスベクターの濃度により、分化マーカーへの発現が種々に変化することが明らかとなった。そこで、アデノウイルスベクターにより発現するRAIの細胞内局在を再度検討したところ、低濃度で感染させた場合には従来RAIが局在するといわれている核内に発現していたが、高濃度で感染させた場合には、核内、細胞質内ともに発現していることが判明した。RAIの細胞内局在により、RAIの機能に変化が生じることが予想され、主として核内で発現した状態での検討が必要と考えられるが、至適の感染濃度の決定には、さらなる検討を要する。 また、免疫染色を目的としてペプチドを用いて抗RAI抗体を作成したが、検討に適していなかった。そこで、蛋白を合成・精製して抗体を作成することとしたが、蛋白の精製が困難で、再度施行中である。
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