研究概要 |
アトピー性皮膚炎(AD)患者皮表では、黄色ブドウ球菌(黄ブ菌)が健常人に比べ高率に検出されることはよく知られている。しかし細菌に対する防御機構が破綻する機序は、角質細胞間脂質セラミド減少によるバリア機能の低下も一因と考えられるが十分には明らかにされていない。セラミドから脂肪酸とともに分解され生成されるスフィンゴシン(Sph)は、in vivoでは黄ブ菌に対し抗菌力を有することが報告され、健常人皮膚の細菌防御に何らかの役割を果たしている可能性が示唆されている。そこでAD患者角層における黄色ブドウ球菌の菌数を半定量的に測定し、同部位での酸性セラミダーゼ(CDase)活性の変化と、その代謝生成物で天然抗菌スフィンゴ脂質であるSphの変動を解析し、AD患者角層における細菌への防御機構について検討した。その結果、Sph量はAD患者角層の皮疹部および無疹部において、健常人と比較して有意に減少していた。Sph量の減少は、同じ検体で行った角層上層に存在する黄ブ菌を含む細菌数の増加に伴い更に顕著な減少がみられた。また、セラミドからSphを生成する酵素であるCDase活性については、アルカリCDase活性はAD患者と健常人で有意差がなかったのに対し、酸性CDase活性はAD患者で有意に減少していた。さらに、Sph量とAD患者角層上層での酸性CDase(r=0.65,p<0.01)、セラミド(r=0.70,P<0.01)との間にはともに正の相関がみられた。 以上より、AD患者の皮膚での細菌の定着しやすさが、抗菌作用をもつSph量の減少と、その基質であるセラミドの減少、および代謝酵素である酸性CDaseの減少に起因することが示唆され、さらに角層Sphは黄ブ菌のコロナイゼーションに対する防御機構の一要素として働いている可能性が示唆された。
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