前任地(筑波大学)にて行われた肺癌51症例の陽子線治療成績を解析した。多くが呼吸同期照射(呼気同期)である。全例の2年および5年原病生存率はそれぞれ72%および47%と良好で、また、肺毒性に関してNational Cancer Institute(NCI)Common Toxicity Criteria(CTC)に基づき解析した結果、47/51例(92%)がgrade1以下と極めて軽微であり、改めて呼吸同期を用いた陽子線治療の有効性と安全性を示す結果であった(International Radiation Oncology Biology Physicsに投稿し受理)。陽子線の場合には線量分布に優れている為、呼気同期照射でさほど問題ないものと思われた。一方、3次元X線治療計画シュミレーションを用いたDose-Volume-Histogram解析の結果、通常の放射線治療で用いられる高エネルギーX線の場合は、肺の膨らみの違いが正常肺の照射容積に影響しやすく、吸気同期の必要性および有益性があると考えられた.しかし、呼吸波形解析の結果、吸気は各呼吸位相での安定性が悪い(ばらつきが大きい)ことが最大の問題点であることも判明した。現在、体幹部プレートと固定用シェルを用い、患者腹部の膨らみをあるレベルで制限をかけるよう固定することにより比較的安定した吸気位相が得られることがわかり、さらには、呼吸誘導コンピュータープログラムを併用し、さらに安定した吸気終末相が得られる方法を検討中である。 また、本研究で確立を目指している吸気呼吸同期照射は、肺癌の放射線治療の中でも特に、1回大線量を照射することが多い定位照射の際に最も威力を発揮するもと考えられる.実際の臨床応用に向けての前準備として、肺癌を含む体幹部腫瘍に対する定位放射線治療のプロトコールを作成し学内倫理委員会に提出した。近々受理される見通しである.
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