粘膜関連リンパ装置に発生するMALTリンパ腫は1983年Isaacsonらによって提唱された悪性リンパ腫の1亜型である。MALTリンパ腫においては、腫瘍発生や進展、治療に対する反応や予後に関与する特徴的な染色体あるいは遺伝子の異常は、ほとんど報告されていない。近年、胃に発生するMALTリンパ腫を中心としてt(1;14)やt(11;18)という染色体転座が報告され、それらからBCL10やAPI2-MLT1という遺伝子の異常が同定された。しかしながらこのように特徴的な遺伝子異常が観察される例のほうが少なく、また、その他の部位から発生するMALTリンパ腫における特異的な染色体転座や遺伝子異常に関する報告は皆無である。数年来、染色体異常の解析手段としてFISH法が広く用いられており、その有効性が認識されている。近年、パラフィン包埋材料にも適応できるようになってきており、応用範囲が広がっている。本研究では、MALTリンパ腫、特に眼窩に病変を有するMALTリンパ腫の特徴的な染色体および遺伝子異常について検索し、腫瘍の発生および進展、治療に対する反応や予後に関与する可能性のある遺伝子を同定することを目的として研究を続けている。本年度も昨年度に引き続きMALTリンパ腫5例の病理標本のホルマリン包埋材料を用いてFISH法による解析を行った。FISH法には1番と2番染色体を同定できるプローブを用い、1番と2番の染色体異常について検討した。コントロール群としてびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫5例における染色体異常と比較した。これまでのところMALTリンパ腫に特徴的な染色体異常は同定できていないが、今後も他の染色体を含めて、検討を続けていく予定である。
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