研究概要 |
前年度の実験結果から,酸素分圧の差を検出できるMRシークエンスとして,gradient echo系列のシークエンス(2D FLASH,TR50ms, TE7ms,flip angle30°)を選択し,基礎実験を繰り返し,得られたデータに再現性があることを確認した.また,今回は炭酸ガスでも同様の基礎実験を行い,推測どうりのMR信号強度の低下を確認することができた. 次に健常脳での酸素分圧の差の検出を試みた.ボランティアの被検者に対し,シーメンス社製1.5TMRI装置を用いて,head coilにて検査を行った.方法として,酸素5リットルを経鼻より吸入させ,吸入前,吸入5分後より10分間持続,その後酸素吸入を止めた状態で10分間持続撮像を行った.撮像シークエンスは基礎実験で使用したものと同様である.信号強度を検出する部位は大脳基底核レベル,放射冠レベルでそれぞれ,数カ所ROIを設定した.前頭葉,側頭葉,後頭葉の白質,皮質,そして基底核レベルでは基底核にも設定した.それぞれのROIより得られた連続的な信号強度の変化から経時的な曲線を作成した.その結果,酸素吸入前後で,MR信号強度に変動が見られたが,上昇するものと低下するものが認められた.有意な上昇とは言えない結果であった.数人で同様の実験を繰り返したが,結果は同じであった.原因として,吸入酸素による酸素分圧の上昇が,元々の酸素分圧に対して軽微であったことが考えられた.健常脳において,酸素吸入によりMR信号強度の変化を確認するには,高圧酸素吸入などの高効率な酸素の供給が必要と思われた. また,脳膠芽腫症例においても検出を試みた.高圧酸素吸入下での検出を考えたが,高圧酸素吸入を行う状態では,すでに腫瘍の大部分は摘出され,術後の炎症組織との分離が不可能であった. 今後の展望として,今回の実験で,基礎実験においては酸素分圧上昇によりMR信号強度の有意な上昇が確認されたため,酸素吸入により酸素分圧の変化が現れやすい部位あるいは臓器で,かつ,化学療法や放射線治療により腫瘍の縮小経過を観察できる病巣を選択する必要があると思われた.
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