研究概要 |
脳循環障害や神経変性疾患において、生理機能を保った神経細胞を特異的に描出することが、適切な治療や病態解明のために重要である。脳には神経細胞のほか、その約10倍ものグリア細胞が存在するといわれており、特にグリア細胞の一種であるアストロサイトの脳エネルギー代謝における役割が注目されている。よって、神経細胞選択的なエネルギー代謝イメージング法を開発するためには、神経細胞特異的なエネルギー基質を見いだし標的にする必要がある。 前年度までに、生きた脳スライスの経時的イメージングシステムを用い、脳の活動時には神経細胞はグルコースだけでなくグリア細胞で作られた乳酸も利用していることを見いだした。このことは、乳酸代謝を画像化する核医学イメージング剤を用いれば、神経細胞の活動を非侵襲的に描出することができる可能性を示すものである。そこで、ポジトロン断層撮像法(PET)によるイメージングが可能であり、TCAサイクルの途中までしか代謝されないことが予想される[^<18>F]L-fluorolactateの合成を試みた。生体で利用可能なL体を立体選択的に合成する必要があるため、[^<18>F]pyruvateから乳酸脱水素酵素を用いて合成することを計画し、まず、[^<18>F]pyruvateの合成を試みた。サイクロトロンより得られる[^<18>F]KFを前駆体のbromopyruvate methylesterに反応させたが、前駆体が標識条件下で不安定であった。そこで、[^<18>F]KFを[^<18>F]FCH_2Brへ変換したのち、酵素反応により[^<18>F]fluoroalanine,[^<18>F]fluoropyruvate,[^<18>F]lactateへと変換させる経路をみいだし、標識合成を行った。さらなる条件検討を行うことにより、[^<18>F]lactateによるPETでの乳酸代謝イメージングが可能になると思われる。
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