平成14年度は健常者10名と精神分裂病(以下分裂病)者5名を対象として視覚誘発脳電位の記録を行い比較検討した。なお、被験者全員に本研究の趣旨を説明し、同意を得た。 視覚刺激には未知の人物の顔画像を用いた。特別な感情表出のない2名の異なる人物の顔画像を呈示する課題(人物弁別課題)を実験1とし、一方の画像を20%、他方の画像を80%の頻度で呈示した。同一人物の笑っている顔画像と特別な感情表出のない顔画像を呈示する課題(笑っている顔を用いた表情弁別課題)を実験2、同一人物の怒っている顔画像と特別な感情表出のない顔画像を呈示する課題(怒っている顔を用いた表情弁別課題)を実験3とし、笑っている顔画像、怒っている顔画像をそれぞれ20%の頻度で呈示した。各被験者には20%で呈示される低頻度刺激を標的刺激として、その刺激に対しボタンを押すように指示した。脳波を平均加算し、標的刺激に対する誘発電位波形からN100、P200、N200、P300、非標的刺激に対する波形からN100、P200、また標的刺激に対する波形から非標的刺激に対する波形を差し引いた波形からN2、P3の各成分を同定し、その頂点潜時と振幅を測定した。 今回の成績では、P300の頂点潜時に関しては、健常者と分裂病者の両者ともに、人物弁別課題に比べ表情弁別課題で有意な潜時の延長を認めた。このことは、健常者でも分裂病者でも情動的要素を含む表情の弁別が人物の弁別と比較して脳内ではより複雑なプロセスを経ることが示唆される。また今回、健常者と分裂病者との比較検討では表情弁別課題において記録されたN2の振幅が健常者に比べ分裂病者で有意に低下していたが、人物弁別課題では両者に有意差は認められなかった。分裂病者では笑いや怒りといった情動に関わる認知において刺激評価後の刺激分類に関する過程での意識的な標的選択が行われ難い可能性があると推測された。
|