本研究の目的は、1H-MRSによる脳代謝機能の評価と、高解像度3D-MRIによる脳形態学的評価を併用し、統合失調型障害患者と統合失調症患者とを比較することにより、精神分裂病の発症機序を解明することである。 1H-MRSの検討では、20歳代の健常者13名とICD-10による統合失調症患者13名(平均罹病期間=3.7年)を対象に、視床と下前頭回の代謝を計測した。統合失調症患者群の左下前頭回のNAA/Cho比は健常者群より有意に低かった。また、両群における左下前頭回のNAA/cr比とVerbal learning taskにおけるカテゴリー化の指標との間に有意な正の相関が認められた。これらの結果は、統合失調症患者では左下前頭回の代謝機能の障害および言語記憶機能の低下を示すとともに、左下前頭回機能と記憶の組織化との関連が示唆された。 3D-MRIの検討では、20〜30歳代の健常者47名、統合失調症患者40名および統合失調型障害患者24名を対象として、前頭葉および内側側頭葉の体積測定を行った。その結果、統合失調症患者および統合失調症型障害患者の両群において、後部海馬と扁桃体の体積が健常者群より有意に小さかった。また統合失調症患者群の前頭葉体積は健常者群より有意に小さかったが、統合失調症型障害患者群と健常者群には差がなかった。 以上の結果から、統合失調症と統合失調型障害における内側側頭葉の共通した脳形態の変化は海馬と扁桃体の体積減少であり、統合失調症ではさらに前頭葉の体積減少と代謝機能障害が生じていると考えられる。これらの結果は、内側側頭葉の変化が主として統合失調症への脆弱性を関連し、前頭葉の変化が加わることにより統合失調症が発症するという側頭-前頭葉2段階発症仮説を支持する。
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