本研究において研究代表者らは、軽度低酸素の前処置(preconditioning)による低酸素耐性の誘導と、その誘導に関与する遺伝子発現の変化について検討した。 (1)低酸素耐性の誘導に関する組織機能的評価 Preconditioningを負荷した実験用ラット(preconditioning(+))、およびpreconditioningを行わない実験用ラット(control)それぞれから脳スライスを作成した。次に、研究代表者らの研究グループが確立した、脳機能画像の基礎的評価を行う実験系であるdynamic position autoradiography techniqueに、糖代謝のトレーサである[^<18>F]2-fluroro-2-deoxy-D-glucoseを適用して、低酸素負荷前後の糖代謝を定量解析した。20分間の低酸素を負荷すると、controlでは糖代謝が負荷前のレベルまで回復せず、不可逆的な傷害が生じたと考えられた。一方preconditioning(+)では、低酸素負荷後の糖代謝はcontrolのそれに比べて有意に高く、低酸素耐性が誘導されたことが確認された。 (2)遺伝子発現変化の比較検討 Preconditioning(+)およびcontrolのラットそれぞれから、(1)の実験で低酸素耐性の誘導が確認されたfrontal cortexのmRNAを抽出してcDNAプローブを合成した。次に、性状が既知の遺伝子のcDNA断片が、ナイロン膜上にアレイ状に並べられいるメンブレンにハイブリダイズし、遺伝子発現プロファイリングを比較した。Preconditioning(+)においては、150-kDa oxygen-regulated protein、mitochondrial stress-70 protein precursor、heat shock cognate 71-kDa protein、copper-zinc-containing superoxide dismutase 1、manganese-containing superoxide dismutase 2 precursor、vimentin、NADPH-cytochrome P450 reductase、amphiphysinの各遺伝子発現がcontrolより上昇しており、これらが低酸素耐性の誘導に寄与している可能性が示唆された。
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