1.目的と方法 今年度は、新規坑うつ薬であるパロキセチン(PAX)の日本人における代謝の特徴を調べるために、昨年度よりサンプル数を増やし、人種差が存在するCytochromeP450(CYP)2D6遺伝子変異と血漿中PAX濃度の関連について検討した。 PAXを2週間以上服用中の57名(男性33名、女性24名)の患者を対象とし、末梢血からDNAを抽出し、Johanssonら(1994)の方法でCYP2D6^*1、CYP2D6^*2、CyP2D6^*10(C188→T、exonl)をSteenら(1995)の方法でCYP2D6^*5(gene deletion)の有無を検出した。また、Hartter(1994)ら、およびShinら(1998)の方法を一部改変しPAXの血漿中濃度定量を行った。尚、本研究は滋賀医科大学医学部倫理委員会の承認を受けている。 2.結果 対象群の年齢は45±14(平均±標準偏差)歳、体重は57±12kg、PAX1日投与量は24±10mgであった。併用薬はCYP2D6の代謝と関連がないとされる薬物のみとした。 PAX血漿中濃度は77.1±82.0ng/mlであった。^*10・^*5のアレル頻度は各々、43.0%、2.6%であった。体重あたりのPAX1日投与量で補正した血漿中PAX濃度はCYP2P6の活性低下遺伝子である^*10または*^5をもたない群では133.5±91.0ng/ml/mg/kg、1つ持つ群では185.0±114.4ng/ml/mg/kg、2個持つ群では104.4±77.8ng/ml/mg/kgであり、活性低下変異遺伝子数1個の群が他の群に比べて有意に高い値を示した(unpaired t-test P<0.05)。 今回の結果は、パロキセチンの複雑な代謝の特徴を反映しているものと考えられ、日本人に多いCYP2D6活性低下遺伝子を1つ保有する群においては、パロキセチン血漿中濃度は上昇しやすく、臨床においても慎重なパロキセチン投与が必要である可能性があると考えられた。
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