近年がん患者のQOL改善という観点から、がん患者の心理的苦痛の軽減という点に関心が集まりつつあり、我々はこれまで乳がんをモデルケースとし、がん患者のどのような心理社会的因子がQOL低下と結びつきやすいかを実証的に検討してきた。その結果当施設の乳がん患者層では、従来指摘されてきたような年齢、術式、機能障害といった点よりも家庭の中で自らの役割を果たせなくなるという点により大きな苦痛を感じることが明らかになり、地域性や文化背景といった要素を考慮することの必要性を強調することになった。本年度は、どのような働きかけが心理的苦痛を軽減するかという点に目的を絞り、集団療法の効果を検討した。外科外来通院中の乳がん患者に教育的集団ミーティングへの参加を呼びかけ、58名の参加を得た。参加者には集団ミーティングの前後にQOLの評価尺度であるPOMS、がんに対するコーピング戦略を評価するMACスケールを評価することを文書で告知し、参加者の自由意志による協力を得た。集団ミーティング実施前には37%の参加者がPOMSで何らかの下位項目で軽度以上の問題を抱えており、特に活気のなさと疲労感を有する参加者が多かった。MACとPOMSの関連では、MACの「希望のなさ」下位項目が最も大きな影響要因だった。集団ミーティング施行後、POMSの活気のなさと混乱が有意に改善し、MACスケールの「諦め」が有意に改善した。国内外の先行研究では、同種の集団療法によってMACの「闘病意欲」が改善するとしたものが多いが、その効果は再現できなかった。この結果の差異は参加者のプロフィール(本研究の参加者は比較的機能障害が少ない、初発術後の患者が主体)の差異によるものとも考えられるが、詳細は不明であり、尚検討を要する部分である。いずれにせよ本研究の結果は教育的集団ミーティングが乳がん患者のQOLを改善することを改めて示しており、今後はこの効果がどの程度一時的なものなのか、または長期間に渡り持続するものなのかを縦断的に検討してゆく予定である。
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