近年がん患者のQOL改善という観点から、がん患者の心理的苦痛の軽減という点に関心が集まりつつあり、我々はこれまで乳がんをモデルケースとし、がん患者のどのような心理社会的因子がQOL低下と結びつきやすいかを実証的に検討してきた。その結果当施設の乳がん患者層では、従来指摘されてきたような年齢、術式、機能障害といった点よりも家庭の中で自らの役割を果たせなくなるという点により大きな苦痛を感じることが明らかになり、地域性や文化背景といった要素を考慮することの必要性を強調することになった。本年度は昨年度に引き続き、どのような働きかけが心理的苦痛を軽減するかという点に目的を絞り、集団療法の効果を検討した。外科外来通院中の乳がん患者に教育的集団療法への参加を呼びかけ、のべ80人を超える参加者を得た。昨年同様、参加者には集団療法の前後にQOLの評価尺度であるPOMS、がんに対するコーピング戦略を評価するMACスケールを評価することを文書で告知し、参加者の自由意志による協力を得た。結果の概要は平成15年度の総合病院精神医学会で報告したが、集団療法実施前には36%の参加者がPOMSで何らかの下位項目で軽度以上の問題を抱えていたが、集団療法後31%に減少した。個人内での変化を検討したところ、集団療法施行後、POMSの「活気のなさ」が有意に改善し、MACスケールの「恐怖」が有意に改善した。POMSの変化に寄与する影響を重回帰分析で検討したところ、全体としては集団療法によって「闘病意欲」が増し、「絶望感」が減った患者ほどPOMSの改善は顕著であった。本研究で用いている集団療法は他に例を見ないほど大人数が参加しているが、きめ細かな対応という点では少人数の集団療法に一歩譲るものの、スタッフにとっては効率がよく、参加する患者にとってはより匿名性が高く気軽であるというメリットがある。今後は小グループの集団療法も試行しつつ、より患者にとって効果の高い集団療法を模索していきたい。
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